デザインとビジネスの領域を横断しながら活躍されている方をゲストとしてお招きし、現在の活動やその裏側にある考え、楽しさ、苦悩などを弊社CEO水谷と語っていただくオンライントークイベントKURU JAM。
これまで、YouTubeにて配信してきましたが、もっと多くの方に楽しんでいただくため「読むKURU JAM」として記事化しました。
今回お越しいただいたのは、日本を代表するカーペットメーカー「堀田カーペット」の堀田将矢さん。堀田さんは、伝統あるウィルトン織機のウールカーペットメーカーでありながら、カーペットを日本の文化にするために様々な新しい活動をされています。
今回は、そんな堀田さんと「伝統を守りながらビジネスを作るには」というテーマでトークを行いました。
当日は、堀田カーペットさんの工場内のオフィスにお邪魔しました。
ぜひ最後までお楽しみください。
堀田将矢
堀田カーペット株式会社 代表取締役社長 1978年 大阪府生まれ。北海道大学経済学部卒業後2002年にトヨタ自動車株式会社入社。
2008年に堀田カーペット株式会社に入社、2017年3代目代表取締役就任。
ウール素材を使ったウィルトンカーペットメーカーとして、「カーペットを日本の文化にする!」をビジョンに掲げ、敷込み用のウールカーペットブランド「woolflooring」、ウールラグブランド「COURT」、DIYカーペットブランド「WOOLTILE」を展開している。
HP:https://hdc.co.jp/
日本に4社だけのウィルトンカーペットメーカー
日本国内に流通する99%のカーペットがタフテッドという製法で作られる中、
堀田カーペットは1962年創業以来、同じ織機を使用してウィルトンカーペットをつくり続けている。
ウィルトンカーペットとはどのようなものなのか、なぜこだわり続けているのかについて伺いました。

(堀田)うちの会社は、紡績・染色・織りという分業体制の繊維業界の中で、主にウィルトンカーペットを製造しています。取引先は高級ホテルやブランドショップで売上の約4割を占め、残りの6割が自社ブランドの製品を展開しています。
ウィルトンカーペットは縦糸と横糸を織り上げることにより、長く使える高い耐久性を実現していることと、小ロットで個性的な製品づくりが可能であることが強みです。
(水谷)堀田さんのところ以外でウィルトンカーペットを作られている会社はどのくらいあるんでしょうか。
(堀田)そもそも、ウィルトンカーペットを作れる会社ってもう国内に数社しかなくて、うちを含めて全て南大阪のこの辺の地域に集まっています。
織屋さんだけじゃなくて、紡績屋さんも染色屋さんもみんなこの地域にあって、それぞれ数社ずつと言う感じです。カーペットってあんまり知られていないんですが、実は全国で作られているうちの80%以上は大阪で作られています。
(水谷)それって、元々の気候や地形などの理由があるんですか?
(堀田)これもまた深い話になるんですけど、日本国内のカーペットの歴史は、江戸時代に佐賀県の鍋島段通から始まり、赤穂段通(兵庫県)、堺段通(大阪府)、山形段通(山形県)へと広がり、堺は商人の街で自由な流通が可能だったために産地として発展しました。現在の赤穂段通や鍋島段通は商業という感覚ではなく、美術工芸品になってしまったので、商業ベースの織物として残ったのは堺という形です。
(水谷)そうなんですね。面白い!
ウールにこだわる理由
(水谷)先ほど、工場見学もさせていただきましたが、素材にもこだわりはあるんですか?
(堀田)カーペットで主に使われる繊維として、アクリルやナイロンという合成繊維があるんですが、僕たちはウールにひたすらこだわっています。その理由は、天然繊維とかサスティナブルとかではなく、長く美しく使えるカーペットが良いカーペットだと考えているからです。
僕たちのお客様でホテルだったりとか、ブティックだったり、家って単純に長く使えれば良いわけではなくて、やっぱり美しさもある程度担保されないと、長く使えるとは言えない。
僕たちは長く使っていただくということがすごく大切だと思っているので、汚れが非常につきにくく落ちやすいウール素材を選んでいます。
なので、ブランドとしても会社としても、ウール以外を使う選択肢は今のところはありません。

事業継承の難しさと面白さ
堀田さんと水谷は、会社を継承しているという共通点があります。
先代から事業継承したからこその難しさや苦悩についてお話を伺いました。
(水谷)堀田さんが、堀田カーペットに入られたのはいつごろですか?
(堀田)2008年くらいに入って、代表になったのは2017年からです。
トヨタ自動車に新卒で入社して、6年ほど勤めた頃、父親から「継ぐか継がないか決めてくれ」と突然電話がありました。家業を継ぐことを考え始めたのはそこからです。
元々そんな意識はなく、母親からも「大変だからやめたほうがいい」と言われていましたが、父親と一緒に仕事をしてみたいという気持ちもありました。
市場が縮小しているから、どうにかしたい!という気持ちはあまりなく、仕事は楽しかったものの、サラリーマンとして60歳まで働く未来が想像しづらかったことも決断の一因で、ずいぶん悩んだ末に、勢いもあって継ぐことに決めました。
(水谷)いざ入ってからは、どうでしたか?
(堀田)やばかったです。少し市場の話をしておくと、1970~1980年代の高度経済成長期には、マンション建設の増加とともに住宅でカーペットが広く使われ、新築住宅の床面積の約20%を占めていました。ところが、僕が帰ってきた2008年にはわずか0.2%まで激減していました。
(水谷)それって急激にそうなったんですか?
(堀田)結構、急激になりました。今4社のウィルトンメーカーも高度成長期の当時は50〜60社あったと言われています。
決定的だったのは、僕が代表を引き継いだ2017年に、創業当時から堀田カーペットが下請けとして仕事をさせていただいていた大きな会社が倒産したことです。
この倒産により関連会社も廃業し、産地の生産能力が大幅に低下しました。かつては1万平米規模の大量発注に対応できていましたが、現在は産地全体で協力しなければ対応できない状況です。
(水谷)それって結構すごい話ですよね。1社では受けきれないから業界全体でどうやって受けるかということをコミュニケーションを取りながらやるわけじゃないですか。
(堀田)まあ面白いですよね。変な話ですけど、「全部は無理です。これくらいだったらできます。」というコミュニケーションがあったりします。

(水谷)その中で、堀田さんは自社商品の開発であったり新しいことにチャレンジしていかれるわけですが、チーム全体にストレスがかかったりとか、反発が起きたりということはなかったですか?
(堀田)当時は、ブランディングという言葉くらいは知っている、というレベルで一生懸命本を読んだり、セミナーにいって勉強をしました。ただ、リーマンショックの後市場が縮小する中で、「やらなきゃ生き残れない」という雰囲気が強かったので、新しいことに対する大きな反対はなかったです。
そのやり方だったり、僕の姿勢については色々言われましたが、最終的にはみんな協力的でした。
(水谷)確かに、形は違うけどそれはKURUも同じかもしれないです。マイナスすぎる状況だとなんとかしなきゃいけないので、結果的に変革に対して受け入れやすい状況になりやすい。カーペット業界から見て、堀田カーペットさんってどんな風に見えているんですか?
(堀田)業界でのコミュニケーションが盛んではないので、わからない部分はありますが、toBのお客さんからの評価でいうと「ものづくりの堀田」というイメージはメーカーさんにちゃんとあると思っています。
それは、僕よりも父への評価なんですが、父はものづくりのアイデアや特許の分野に優れていて、これまで特許を取得したり、文部科学大臣賞を受賞するなど、開発者として活躍してきました。
ものづくりのイメージの基盤を築いたのは父であり、僕はそれを適切な形で伝えていく役割を担っていると感じています。
「堀田カーペット」というブランドづくり
カーペットなどの建材は、一般的なプロダクトのように作ってすぐに売れるものではなく、実際に建築に採用されるまでには2〜3年かかることが多い。そのため、新商品をつくるだけでなく、ブランディングを行うことが大切であると堀田さんは当時から考えていたそう。そんな堀田カーペットのブランディングの考え方について伺いました。
(水谷)堀田カーペットさんはブランディングが本当に上手な印象があります。
(堀田)2011年に中川政七商店の中川さんのコンサルティングを受けてブランディングの基礎を学びました。しかし、学んだことをすぐに実践にうつすのは難しく、最終的にちゃんと形になったのは、2016年にCOURTというラグブランドを立ち上げた時です。
そもそもカーペットは0.2%しか市場が無いので、設計の方や工務店の方もほとんど使ったことなくて、つまりはエンドユーザーなんですよ。
カーペットは建材として販売している限り、エンドユーザーとの接点が限られてしまうため、toC向けのコミュニケーションとtoBの施工ビジネスを両立する方法を考えるようになりました。
(水谷)既存の流通を大切にしながらも、使ったことがない人に向けて新たな市場を開拓する動きをされていったということですね。
(堀田)そうです。COURTを立ち上げた際には、これで成功しなければブランディングという言葉を自分はもう使えないなと思うほど、ブランドへの手応えを確信していました。そこで、家具店さんとの取引を始めたり、インテリア関連の展示に出展したりとtoCの市場を拡大していきました。
この経験を通じて、ようやくブランディングの本質が自分の中でしっかりと腑に落ちたように思います。

0.2%の市場をなんとかするには
(水谷)堀田さんのお話しを聞いていて、業界自体を守っていかなきゃいけないという感覚を強く感じました。業界全体を良くしていく中で、「じゃあ堀田カーペットはこの戦略をとろう」というように。
そのような感覚は建築業界と少し違うので聞いていて新鮮だなと思いました。
(堀田)そういうふうに見ていただいているとするととても嬉しいんですが、「カーペットを日本の文化にする」というビジョンを掲げながら、どの範囲を背負うべきなのか悩んでいる部分もあります。
ウールカーペット業界なのか、カーペット全体なのか、インテリア業界なのか…。
最低限カーペットは背負わないととは思っているんですが、そもそも今の会社の規模や産地の生産能力を考えると、業界全体を背負うのは簡単ではありません。
一生懸命やっていますが、業界全体が潤ってきている実感は全くなく、まだ全然です。
(水谷)確かに、業界全体を引っ張る人ってなかなかいないですよね。
でも堀田さんは「伝える力」があるし、それによってカーペットの魅力を知れば、使いたくなる人は増えるはずだと思います。
(堀田)そうですね。少なくとも、自分の代で業界の課題にどう向き合うのかは示したい。これだけ世の中がどんどん変化していく中で、需要のシュリンク、サプライチェーンの崩壊という2つの課題が何も解決されていないんですね。
このままでは、ずっと「斜陽産業」って言われ続けてしまうなと。
僕が入社した時、一番ショックだったのは、お客さんに挨拶に行くと「よくこんな業界に来たね」って言われたことです。自分たちの業界をそんな風に卑下してしまう状況がすごく寂しくて悔しかった。だからこそなんとかしたいという思いは強いです。
市場拡大が最もシンプルな解決策ですが、それだけでいいのかという迷いもあります。この業界は変化が遅いけれど、その分じっくり取り組める時間がある。でも、今の0.2%の市場を何とかするには、もうゲームチェンジレベルの変革が必要ですよね。

(水谷)そんな中で、新しいチャレンジとして体験施設を作る計画があるんですよね?
(堀田)はい、近くに170坪の土地を購入し、カーペットの魅力を体感できる施設を作ろうとしています。単に市場を広げるのではなく、「このものづくりが未来に残っていくこと」そのものが文化になるかもしれないと考えるようになりました。工芸の世界のように、そこに存在すること自体が価値になる、そんな場を作りたいんです。やっぱり、カーペットは実際に踏んでみて初めて良さが分かるものですから。
この対談の後、堀田カーペットさんはCARPETROOM PROJECTというプロジェクトを始動されています。4月にはCARPETROOM BASEという複合施設をオープン予定だそう。
詳細は公式HPをご覧ください。
職人やものづくりの価値
採用活動に力を入れ始めた堀田カーペット。募集されているのは現場中心の「職人職」と事務中心の「デザイナー職」。堀田さん自身は広い意味で「全部デザイン」だと考えており、ビジネスをデザインできる方を探しているそう。
そんな採用活動の中で感じた違和感についてお話ししていただきました。
(堀田)採用活動をしていると、いろんなギャップを感じるんですよ。
例えば最近はリモートワークや副業が増えて、働き方の選択肢が広がるのはすごくいいことだと思うんです。
でも、面接で「職人さんをめちゃくちゃリスペクトしてます!」って言う人が、「リモートワークがいい」「別の拠点に住みたい」って言うんですよ。いやいや、職人は現場にずっといるんだぞ? それなのにリスペクトって、なんかズレてません?
(水谷)確かに「ものづくり」の分野にスポットを当てることは増えているものの、実際に職人を目指す人はまだまだ少ない印象があります。
(堀田)そうなんです。ITやコンテンツ産業には興味がある人がめちゃくちゃ多いのに、実際に「ものを作る仕事」を選ぶ人はすごく少ない。企画には興味あるけど、実際に手を動かしたくない人が多いんですよね。
それがなんか、ずるいなって思うんです。職人や大工さんを「すごい!」って言う人は多いけど、実際になりたい人はほとんどいない。それって無責任じゃないですか? 「職人って素晴らしい」って軽々しく言うけど、職人にも色々いて、すごい人もいれば、そうでもない人もいるんですよ。
(水谷)いびつさみたいなものがあるんですね。

(堀田)世の中はどんどん良くなろうとしてるし、引っ張る人も増えてる。でも、それについていけないところもたくさんあって、結果的にすごくぐちゃぐちゃになってる。
この状況を完全に解決できるとは思わないんですけど、職人やものづくりの価値は、もっと上がっていくべきだと思ってるんです。僕らもまだまだできてないけど、そこをどうにかしたいなって。
(水谷)面白いです。まだまだ話せそうですが、本日はこの辺で終わりたいと思います。ありがとうございました。
(堀田)ありがとうございました。
おわりに

堀田さんのウィルトンカーペットへの想いに深く共感し、僕も堀田カーペットの商品を買いたくなりました。
伝統を守りながらも市場の変化に対応し、新たな価値を産み出そうとする姿勢に強い意志を感じます。産地全体で協力しながらものづくりを続ける現状は、縮小する業界の中で模索する建築と通じる部分がありました、
また、職人の価値をどう伝え、次世代に繋げていくかという課題も面白く、カーペットの可能性に改めて気付かされる対談でした。
(この対談の後、本当に購入させていただきました。)
※本記事はイベントの対談内容を、要約・編集の上補足したものです。
※より濃密な話を聴ける本編はこちらからどうぞ!
https://youtu.be/BisbCyLpjtc?si=0lH1EastA7DWEkwb