デザインとビジネスの領域を横断しながら活躍されている方をゲストとしてお招きし、現在の活動やその裏側にある考え、楽しさ、苦悩などを弊社CEO水谷と語っていただくオンライントークイベントKURU JAM。
これまで、動画で配信してきましたが、もっと多くの方にお楽しみいただくため「読むKURU JAM」として記事化しました。
今回お越しいただいたのは、企画とデザインでアシタを面白くするクリエイティブスタジオ、アシタノシカク株式会社の大垣ガクさん。「タノシイはつくれる」というテーマでトークを行いました。
大垣さんは、多くのブランドデザインを手掛け、コミュニケーションデザイン・空間デザインなどの領域で実績を挙げられています。
当日は、アシタノシカク社内にあるクリエイティブラボ「ASITA_ROOM」にお邪魔し、お送りさせていただきました。
ぜひ最後までお楽しみください。
大垣ガク
クリエイティブディレクター/空間デザイナー
企画とデザインでアシタを面白くするクリエイティブスタジオ「アシタノシカク」代表取締役。多くのブランドデザインを手がけ、コミュニケーション、空間デザイン、アートなど自在に構築するクリエイションで効果と実績をあげている。
意地でも楽しくする覚悟
「タノシイはつくれる」をビジョンに掲げるアシタノシカク株式会社。まずは、そのビジョンを掲げるに至った理由や、大垣さんの想いについてお伺いしました。
(水谷)今回のゲストは、アシタノシカク株式会社代表の大垣さんです。本日は「タノシイはつくれる」というテーマでお話を伺いたいと思っています。よろしくお願いします。
(大垣)よろしくお願いします。
(水谷)以前、大垣さんとお仕事でご一緒した際に、「タノシイはつくれる」という言葉がとても印象的でした。この言葉に込めた想いや、どのようにして生まれたのかお聞かせください。
(大垣)実は、「タノシイはつくれる」という言葉は、会社名の「アシタノシカク」に「楽しい」という文字が入っていることに由来しています。アシタノシカクという社名は、ビジュアルデザインを手がける会社なので「明日の視覚」という意味で名付けました。名前に「楽しい」が入っていることは、かなり初期から強調してきましたね。
(水谷)その名前は最初から意図してつけられたんですか?
(大垣)実は、全然狙ってなかったんです(笑)。でも、よく「アシタノシカクってどういう意味ですか?」と聞かれるので、考えるようになって、「楽しい」が入ってるんですと説明するようになりました。それが徐々に僕たちのアイデンティティになっていった感じですね。
(水谷)なるほど。説明を重ねるうちに、会社にとって大切な言葉になっていったんですね。大垣さんにとって「タノシイをつくる」ための秘訣はありますか?
(大垣)「タノシイはつくれる」というのは、楽しむ姿勢の問題です。仕事って、たとえ楽しくなくても責任感でやり遂げることはできますよね。
でも、僕は「意地でも楽しくしてやるぞ」という覚悟が必要だと思っています。心構えや覚悟というのは、未知のことに飛び込む勇気のことだと思うんです。世の中は、わかっていることばかりだと思いがちですが、実際は、私たちが何時何分に地球にいるということすら仮説に過ぎない。だからこそ、わからないことを受け入れて生きることが、クリエイターにとっては大切だと思います。
(水谷)未知のことに挑戦するプロセスって、ワクワクしますよね。
(大垣)そうなんです。僕たちの仕事は、わかっていることとわからないことを企画を通じて繋ぐことに価値があると思っています。
偶然が入り込む余地をつくる
様々なコラボレーションや企画展示が生まれているクリエイティブラボ「ASITA_ROOM」。アシタノシカクのビジョン「タノシイはつくれる」を体現するこの空間ができた経緯や存在意義についてお伺いしました。
(水谷)今日の会場である「ASITA_ROOM」について、もう少し詳しく教えていただけますか?
(大垣)アシタノシカクには、主にデザイン・ソリューションを担う「SIKAKU_ROOM」と、この「ASITA_ROOM」という、今配信を行っている少しダークな雰囲気の部屋があります。このASITA_ROOMは、架空のプロデューサー「ミスターX」の部屋という設定で、「こんなことやってみたら?」といったメールが送られてくる、挑戦することや未知の領域にチャレンジすることを礼賛する装置としてつくりました。
この部屋を通じて、クリエイティブな実験や新たな仕事が生まれることを期待しています。
(水谷)「タノシイ」を生み出すための装置ということですかね。
(大垣)そうです。うちは営業の会社ではないので、しょっちゅう営業に行ってそこで仕事を取ってくるということが難しい。なので、この部屋でやってみたい展示やイベントを開催することで人が訪れる仕掛けづくりをしています。そうすると「アシタノシカクさんこんなことできるんじゃないですか?」と言っていただけたりして、そこから実際に新しいクリエイティブのお仕事に繋がっています。例えば、ホテルの部屋だったり、スポーツブランドのブランドデザインなどが生まれました。
(水谷)ここでのイベントはどのようにして生まれているんですか?
(大垣)主に2つの方法があります。会社で3ヶ月に1回「アシタ会議」という作戦会議をしていて、そこで出たアイデアから企画をしています。その企画は一人ひとりの興味から発生するので、やっぱりそういって発信しているうちにこの部屋で何かやってみたいんですけどっていうお声がけをいただくことも増えてきました。
(水谷)中から生まれた企画だとどんなものがありますか?
(大垣)中から発生して、今アツイのは、「アシタノホラー」という企画です。僕自身はそんなにホラーに興味がある方ではないのですが、アシタ会議でいつもホラー映画の話ばかりしている子が居て、そんなにホラー好きなんだったら「アシタノホラー」っていうので何かやってみたらっていうので始まりました。
(水谷)ホラーですか。
(大垣)アシタノホラー展っていうのを4回やって、5回目は、ホラー系のネットワークの人たちの中で呪物をコレクションしている方がいて、その呪物を一同に集めて展示する呪物展をやりました。そしたら、このそんなに広くないスペースに、コロナ禍で制限をしながら2週間で4,000人が来たんです。東京にも巡回して、計11,000人の人が訪れるイベントになりました。
(水谷)すごいですね。
(大垣)入場料も取ってたんですけど、グッズもすごく売れて、雑誌にも取り上げられたりしました。結局ある程度売上ができたので、これは子会社にして、そのホラー好きの子を社長にして、もっと専念できる環境をつくりました。今は、経営面などは協力しながらやっています。
想像し得ないことを取り込める余白や偶然性を作っておくのはすごく楽しいし、大事だなと思っています。
提案の領域を広げる
(水谷)今のKURUの状況でいうと、SIKAKU_ROOMのようなデザイン領域が「設計」で、ASITA_ROOMのようなチャレンジ領域は「企画」みたいな構造になっているのかなと思いました。
(大垣)まさにその通りですね!
水谷さんが、活用されていない土地に飛び込んで新しい仕事を生み出そうとしている話を伺い、すごいなと思いました。うちでいうと、ASITA_ROOMがその役割を果たしている感じです。
(水谷)そんなASITA_ROOMを持つアシタノシカクの理想の仕事ってありますか?
(大垣)もともと私たちはコミュニケーションデザインから始まりましたが、今ではスペースデザインや、ビジネスとアートを統合するような領域にも広げています。これらを一つのクリエイティブとして提案できることが理想です。すべての仕事がそうとは限りませんが、ASITA_ROOMは未知の価値を象徴する空間なので、ここで実験を重ねながら、ビジネスとアートを融合させた提案ができれば素敵だなと思っています。
「面白い」「楽しい」がビジネスのきっかけをつくる
(大垣)先ほどからお話しているように、やはり余白や偶発性を作らないといけないと思っています。この部屋も創業2年目に急に作り始めたので、社員から「大丈夫ですか?」と言われたこともありました(笑)。しかし、ここで実験や検証を行い、それが発信されることで、誰かにインスピレーションを与える。それが結果的に経済活動につながると考えています。
(水谷)会社を立ち上げて2年目にこの部屋を作ったんですか!?それはかなりの冒険ですね。
(大垣)そうなんです。でも、アートホテルBnAの田澤さんとお話したときに、ASITA_ROOMでやりたかったことはこれだと確信しました。こちらから発信するだけではなく、ここで体験した人が「面白かったよ」と語ってくれることで、「こんなこともできるんじゃないか」という期待感が場所やアシタノシカクに生まれるんです。
(水谷)なるほど、何か具体的なサービスを生み出すというより、「面白い」「楽しい」という影響を与えることで、人が集まり、そこからビジネスが生まれるきっかけになるということですね。
仕事を生み出すところから関わる
(水谷)これまで様々なお仕事に関わってきたと思いますが、アシタノシカクさんはどの段階からプロジェクトに関わることが多いのでしょうか?
(大垣)私たちは、仕事が生まれる最初の段階から関わることが多いです。例えば、関西テレビの新しいロゴやコンセプトを作らせていただいた際も、「カンテレが面白い番組を作っても、それがカンテレの番組だと認識されなければ意味がない」という提案からスタートしました。ロゴを作成し、ビジュアルアイデンティティを統一し、コミュニケーションのデザインまで手掛けました。
「これをやるべきだ」という段階から関わることができたプロジェクトです。
(水谷)プロジェクトの最初のコミュニケーションはどのようなものだったのでしょうか。
(大垣)最初は、新聞広告や番宣のお仕事をさせていただいていました。いきなり大きなプロジェクトが実現したわけではなく、さまざまな仕事を通じて、広報担当者と話を重ねていました。「今はタイミングじゃない」と言われることも多かったのですが、理想を言い続けているうちに1mmずつにじり寄っているような感覚です。
目指す状態を共有すること
(水谷)大垣さんの会社では、様々なプロジェクトを手掛ける中で、社外の方との連携やコラボレーションも多いと思います。そうした際に、気をつけていることがあれば教えてください。
(大垣)大切にしているのは、想いや目指すゴールの「目線を合わせる」ことです。もちろん、条件やスケジュール、予算も重要ですが、それ以上に「こういうことを目指したい」「こうなったら最高だ」といったビジョンを共有することが大事だと思っています。
(水谷)なるほど。
(大垣)どんなプロジェクトでも、誰かが本当にやりたいことが一番大切だと思っています。理屈で「流行っているからやろう」や「儲かるからやろう」といったものではなく、例えばラーメンで言うなら、カップヌードルはもちろん偉大ですが、僕らが目指したいのは「美味しい!」と思われるラーメン屋さん、行列ができるような店を作ることです。そういう情熱を持ってプロジェクトに臨みたいんです。だから、一緒に仕事をする方とも、ビジネスの話というより、「このラーメンはこの出汁で…」といった具体的な話をする方が大切だと感じています。
(水谷)夢を語っていると、チーム内では共感を得られても、会社全体で承認を取るのが難しい場合もありますよね。それを乗り越える工夫はありますか?
(大垣)それはよくありますね(笑)。でも、もはや通過儀礼のようなものだと思っています。そこからどう進めるかが大事で、実際に動き始めてからが本当の仕事だと思うので、だんだん挫けなくなってきましたし、カンも良くなってきたと感じています。
(水谷)僕たちの場合は、担当者が社内で承認を得やすいように、一緒に資料を作成することが多いですね。
(大垣)そうですね、援護射撃は大事です。経営判断をする人も、予算をつける決断を迫られているわけですから、その気持ちに寄り添うことも大切だと思います。楽しむというのは少し言い過ぎかもしれませんが、どうやって乗り越えるかを考えることが重要だと感じています。
チームの個性や強みを活かすのが最強
(水谷)これまで社外との連携についてお伺いしましたが、大垣さん流のチームづくりや組織づくりで大切にしていることはありますか?
(大垣)その人の持っている個性や強みを生かすことが一番最強だと思っています。
昔から適材適所という言葉がありますが、いかにみんなの強みを拾って活かすかを大切にしています。
そのためにASITA_ROOMを作って、メンバーにいろいろチャレンジしてもらっている部分もあります。僕は軍隊的に僕のビジョンを実現していくことを目指しているわけではないので、そういう活かし合う関係じゃないとチームとして強くなれないのかなと思っています。
(水谷)その考え方は、大垣さんの経験から生まれたのでしょうか?
(大垣)そうですね。僕はもともと、大規模な広告を手掛ける会社に勤めていましたが、自分の想いを表現する余地がほとんどない仕事で、フラストレーションが溜まっていました。営業の指示通りに作るだけだったんです。そこで、当時の仲間と一緒に、自分たちが表現したいことをまとめた本を作り、それが今のスタート地点になりました。その本をテレビ局の方が見つけてくれたことで、徐々に指名で仕事が来るようになったんです。
(水谷)熱量が生まれるのはしんどい時というか、何かをやり切ったって思えた時ですよね。
(大垣)過去の自分の経験から、もがくと会社の外の人が見てくれているという実感があります。それが浮き上がってきて、アシタノシカクにはいろんなタレントがいると思われるのが大事。
その状態の方が、それぞれが大変な時も助け合えるチームになれると考えています。
(水谷)本当にその通りですね。
タノシイはつくれる
(水谷)大垣さんとは数年前からの知り合いですが、こうして仕事でご一緒するようになり、ここ半年ほどでお話しする機会が増えましたよね。
(大垣)そうですね。僕も水谷さんとしっかり話したいと思っていました。むしろ、水谷さんのお話を聞いて、KURUがこんなに面白いことをしているんだと改めて知れて、すごく楽しかったです。
(水谷)「タノシイはつくれる」ってすごい良いワードだなと思っていて、一緒にお仕事をしたときに聞いて印象に残っていて、「楽しいをつくる」というのは文章としてあまりないけれど、今日の話を聞いて確かに「タノシイはつくれる」と思いました。
(大垣)実は、「タノシイはつくれる」っていうのは、ちょっと昔の化粧品ブランドの広告表現で「可愛いは作れる」っていうのがあって、それを言い換えているんです。あのメッセージって、「作れないと思っているけど、作れるんだよ」ってことがひとつと、「あなたでも作れる」という意味も込められていると思うんです。
誰もがチャレンジできて振りかぶりすぎない。こうじゃないといけないというのはない。スッと動き出せるっていうニュアンスを込めたライトさも大切にしたいなと思っています。
(水谷)素敵です。本日はこの辺で終わりたいと思います。ありがとうございました。
(大垣)ありがとうございました。
おわりに
今回の対談を通じて、大垣さんの「タノシイはつくれる」という言葉の背景や、アシタノシカクの挑戦的な姿勢に深く共感しました。大垣さんが大切にしている「余白」や「偶発性」を尊重する姿勢は、KURUのビジョンとも重なる部分が多く、これからのプロジェクトに向けたヒントがたくさん得られた気がします。
また、個々の才能を生かし、ビジネスとアートを統合しながら新しい価値を生み出すという考え方にも非常に感銘を受けました。特に、ASITA_ROOMという場が、単なるクリエイティブな空間にとどまらず、経済活動や新しいビジネスのきっかけになるという話は、自分たちが取り組む土地活用や不動産開発の仕事に通じるものを感じました。
大垣さんとの会話を通して、「楽しさ」を形にすることがいかに重要かを再認識し、これからの仕事にも「タノシイはつくれる」という精神を生かしていきたいと思います。
※本記事はイベントの対談内容を、要約・編集の上補足したものです。
※より濃密な話が聴ける本編はこちらからどうぞ!https://youtu.be/ZBpHoE87soI?si=ms6Brd0eXhQ1beX9