読むKURU JAM02『ビジネスを加速させるクリエイティブの関わり方』


2024.08.07

デザインとビジネスの領域を横断しながら活躍されている方をゲストとしてお招きし、現在の活動やその裏側にある考え、楽しさ、苦悩などを弊社CEO水谷と語っていただくオンライントークイベントKURU JAM。

これまで、動画で配信してきましたが、もっと多くの方にお楽しみいただくため「読むKURU JAM」として記事化しました。

今回お越しいただいたのは、「物事に、物語を」をビジョンに掲げ、ブランディングを行う株式会社MEETINGの三村さん。三村さんと水谷は一緒に旅行に行ったりするほどの仲で、KURUのHPの改修も株式会社MEETINGさんにお手伝いいただきました。ビジネスを加速させるためのクリエイティブの関わり方について具体的な事例を交えながらお話ししていただきました。

ぜひ最後までお楽しみください。

株式会社MEETING 三村恵三
株式会社MEETING代表取締役・クリエーティブディレクター
クリエーティブディレクターとして、大手クライアントのマス広告を初め、ウェブ、CM、映像、コミュニケーション開発に関わるデザイン領域で活躍。2016年より株式会社MEETING代表取締役として、数々のブランディングプロジェクトを中心に活動中。特に行政・自治体・企業との地域の特性を含めたブランディング案件を多く手がける。

クリエイティブは「総合格闘技」

まずは三村さん率いるMEETINGの、核となるモットーやポリシーについてお伺いしました。

(水谷) 今回のゲストは株式会社MEETINGの代表取締役、三村さんです。クリエーティブディレクターとして様々な仕事を手掛けています。本日は三村さんのお仕事についてお話しいただきます。よろしくお願いします。

(三村)よろしくお願いします。簡単に自己紹介しますと、私は株式会社MEETINGという会社でブランディングやデザイン思考、パーパスの策定、CMや映像、コピーライティングなどを手掛けています。拠点は大阪と東京にあり、6年目の会社です。

(水谷) 6年目なんですね。

(三村) はい。私たちの会社名の由来は「ミート+ING」で、仕事をするために人と会うのではなく、人に会うために仕事をしているという意味です。様々な課題の相談を受けますが、モノやコトの裏には必ず物語があると思います。例えば、一つのプロダクトでも、それが作られた理由などをもっと伝えられたら良いのではないかと考えて、「物事に、物語を」というモットーでブランディングを考えています。

(水谷)それは素晴らしいですね。

(三村) ありがとうございます。私たちの仕事のポリシーは「総合格闘技」です。コピーライターだからコピーだけを作る、映像クリエイターだから映像だけ作るのではなく、クライアントから出た課題をどんな技を使ってでも解決することを信条にしています。

(三村) 例えば、合気道の基本的な考え方は、人の力を借りて1×1を5や6にすることで、クリエイティブも同じだと思います。課題を遠くに飛ばすためのアイディアを出すことが重要です。特に、企業が新規事業や改革を行う際に、どんな決め技で進めるかを考えることが大切だと考えています。

(水谷) 確かに、事業の領域を横断するアプローチが必要ですね。それが新たな価値を生み出しているのだと思います。


30年後を見据えた価値づくり

オープンから30周年を迎えた、大阪にある世界最大級の水族館「海遊館」のリブランディングを手掛けた事例では、創業から30年たったからこそ伝えられる物語を伝えるための工夫について伺います。「ジンベエザメ」のイメージが強い海遊館を、新たな視点で捉え直して表現しています。

(三村)コロナ前に、海遊館の30周年のコンセプトブックを作りたいという案件があったんです。30周年を迎えるにあたり、お土産屋さんの商品が子供向けに偏っているという課題がありました。もっと大人向けの商品やVIPに配れるような、海遊館の考えや感覚が伝わるものを作りたいというオーダーでした。

(水谷)確かに、水族館のお土産は子供向けのファンシーなものが多い印象です。

(三村)そうなんです。そこで、海遊館の独自の魅力を伝えるコンセプトブックを作ることになったんですが、皆さん、海遊館と言えばジンベイザメだけだと思っていませんか?

(水谷)そういうイメージですね。

(三村) 実は海遊館の配置計画は、地球の環太平洋火山帯という火山帯を忠実に再現しているんです。火山帯に沿うように海洋生物たちは生息しており、建物の構造として地球が忠実に「再現」されています。

(水谷)知りませんでした。

(三村)あまり知られておらずとても興味深かったのですが、実は海遊館の建築コンセプトブックは30年前に作られていて、「海遊館は地球を再現しています!」という内容を今発信しても意味がないと感じました。そこで改めて、30年経った海遊館の価値についてさらに議論や観察を重ねました。

すると、「海遊館はもはや地球の再現を超えた、もう一つの地球なのではないか?」と捉えるようになりました。例えば、餌やりの時間に海にキャベツが丸々放り込まれたり、水槽のヘリに魚が寝そべったり。30年経ったいま、地球では起こり得ないことが、海遊館という新たな地球の中に生態系として成立していたのです。

(水谷)なるほど。

(三村)だからこそ、海遊館という「もう一つの地球」の体験を伝えるコンセプトブックを作ることにしました。

(水谷)どのようなコンセプトブックになったのでしょうか。

(三村) 地球を再現しているのではなく、「もう一つの地球」であることを伝えるために、例えば冊子内の動物の写真には、あえて窓枠まで写ったものを採用しています。ただ動物だけ写すと本当に地球を再現しているように見えるのですが、そうではなく、「もう一つの地球」としての海遊館ならではの臨場感や体験が伝わることが重要だと考えました。

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(水谷)それは面白いアプローチですね。

(三村)30年経った海遊館の価値を考えると、人々にとって何が大切なのかを改めて考えさせられました。

(水谷) なるほど。KURUは、建物の用途が変わったり、継続しなくなったりした場合に、新しい機能を追加することはありますが、既存の機能を残しながら表現を変えるというアプローチは建築ではあまりないので面白い考え方です。

クリエイティブの関わりしろを広げる

MEETINGでは受託の仕事だけでなく、自社でプロダクトを作り販売しています。プロダクトができるきっかけから実際に売れるまでの話について伺うと「物事に、物語を」を掲げるMEETINGらしいストーリーがありました。

(三村)MEETINGでは、自社商品として〈TOBAN〉という信楽焼のキャンプ用品を作っています。これ見たことありましたっけ?

(水谷)網の上にも乗せたり焚き火台に乗せて、食材を焼くことができる商品ですよね。

TOBAN

(三村)そうなんです。この商品が生まれたきっかけは、数年前に経済産業省の案件で一緒に信楽焼のプロジェクトを始めたことでした。何度も現地に足を運ぶうちに、信楽焼を焼く時の棚板が非常にかっこいいと感じたんです。

(水谷)それをキャンプ用に応用しようと考えたんですね。

(三村)そうです。信楽焼のお風呂と同じく、陶板は遠赤外線で非常に暖かくなる特性があります。土製なので安全ですし、取り扱いも簡単です。陶板のキャンプグッズが無かったので、自分たちで作ろうと思いました。

(水谷)なぜキャンプグッズを作ろうと考えたのでしょうか?

(三村)元々僕自身がキャンプ好きということもありますが、火鉢がかつてどの家庭にもあった時って99%信楽焼のものだったので、いつも信楽焼は家族の真ん中にあったんですよ。キャンプって家族が本当に輪になるものなので、この商品によってもう1回信楽焼を家族の真ん中に持って行きたいなと思っています。

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(水谷)一般的にデザイナーは、商品の売り上げのパーセンテージで収益を得ることが多いですが、MEETINGさんは自社で在庫を抱えられていますよね。何か理由があるのでしょうか?

(三村)デザイナーが売れた何%かをもらうというのは、かっこ悪いと思っているんです。信楽のためにはならないし、これは自分たちで考えた商品だから自分たちで販売しています。在庫のリスクはありますが、プロモーションの部分まで「総合格闘技」としてデザインできることが強みだと感じています。

(水谷)なるほど。具体的にどんなプロモーションをされたんですか?

(三村)まずはクラウドファンディングを実施しました。それが目標金額に対して2391%の支持を集めることができました。それが結構Webメディアや雑誌メディアに紹介されて、その次にYouTuberの企画に取り上げてもらって、結局それをテレビが取り上げてくれるというビジョンを描いていたんですが、それがうまくいったなと思います。


デザイン会社として自社事業を行う理由

MEETINGでは、〈TOBAN〉の販売の他にも、〈ハルカススカイラン〉という高層ビルの非常階段を駆け上がるスポーツ大会の運営も行っています。「クリエイティブは総合格闘技」をポリシーとする三村さんが積極的に自社事業にチャレンジする理由を伺いました。

(水谷)三村さんは、デザイン会社でありながら自社事業に積極的にチャレンジされている印象があります。何か理由があるのでしょうか?

(三村)広告代理店って基本的には新聞の枠を持ってたり、テレビの媒体を売ったりできますよね。でも僕らMEETINGは何も持ってなくて、売るものがないしどうしようかなと思った時に、自社事業をちゃんとやろうかなっていうことになりました。
〈TOBAN〉の他には、〈ハルカススカイラン〉というスポーツ大会を4年ぐらいやっています。

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※ハルカススカイラン…あべのハルカスで2016年から開催されている国内初の垂直マラソンの世界大会。ランナーは最上階の60階まで非常階段を駆け上がる。世界では、ドバイやニューヨークパリなどで開催している。

(水谷)なかなかないですね。

(三村)ちょっとディープですが、芸能人の人たちも面白がってきてくれたりして、テレビ番組でも取り上げられるようになりました。僕らとしては、受託じゃない仕事をやりたかったことと、大阪って最近元気ないと言われるからインパクトを与えたかったこと、そして世界とつながる仕事をしたいという思いがあります。

(水谷)この企画から実行までやりきりたかったっていうのはすごいことですよね。

(三村)やってみないとわからないことっていっぱいありますよね。例えば、非常階段ってほぼ1社が作ってるっていうことに気づいて、その会社さんにメインスポンサーになってもらいました。それからその会社さんは社員旅行もここに来て、家族とかも連れてきて一緒に上がったり応援したりして、非常に良い循環ができています。

(水谷)それは素晴らしいですね。

(三村)企画から実行までやることで、いろいろな経験ができて、それが次のステップに繋がっていくんですよね。

(水谷)その通りですね。経験することで、いろいろな学びがありますし、それが次のアイデアやプロジェクトに繋がっていきます。

(三村)そうですね。僕らもデザイン会社として受託だけでなく、自分たちの貢献をキャッシュポイントに変えていく必要があると思っています。

経営者の考えを理解すること

クリエーティブディレクターでありながら、大学院に通いMBA(経営学修士)を取得された三村さん。デザイナーが経営者の考えを理解することの大切さについて教えていただきました。

(水谷)三村さんは先日大学院でMBAを取得されましたね。取得したことで、プロジェクトや仕事のオーダーに対する関わり方が変わったりしましたか?

(三村)そうですね、自分が変わると求められることも自然と変わってきている実感があります。これまで言葉を作るのは得意でしたが、経営者さんのことを本当に理解できていたかというと、そうではなかったですね。でも、今は共通の言語が持てるようになったことで、アウトプットにも変化があると感じています。

(水谷)それって建築デザインでも同じですよね。僕らも、3枚だけパースを描いてくれないかという依頼から、「どういうビジネスモデルで展開されるのか」といった話になり、「じゃあこの人をご紹介します」といった感じで話が進むこともよくあります。

(三村)特に新規事業をどうやって一緒に開発するかが重要ですよね。経営者の気持ちを考えながら一番いいポイントを見つけて出すのが大事で、セールスシートができてから聞くんじゃ遅いんです。

(水谷)まさにその通りです。三村さんは、最終的にどういうことをチームで提供できるようになりたいと思いますか?

(三村)現在の延長線上にはないような気がしますね。
これからは、会社を買収して、経営者さんと一緒にクリエイティブな提案をしていくことが重要です。投資家やCVC、ベンチャーキャピタルと一緒にデザイン経営の価値を高めていくことで、赤字の会社も良くなる可能性があります。組織自体もデザインだから、組織の変革も提案していきたいです。

(水谷)私も同じような考えです。デザインファンドのように、デザイン会社が投資を手段として持つことはスタンダードになるかもしれませんね。

(三村)そうですね。でも、特定の分野に特化したいです。ここの分野だけ強いというものを目指したいです。

(水谷)あっという間に1時間半が経ちましたが、最後に一言ありますか?

(三村)また時間をあけて同じ話をしたいですね。「あかんかったなあ」とか。

(水谷)本当にそうですね。本日はありがとうございました。

(三村)ありがとうございました。

おわりに

三村さんとは普段から、仲良くさせていただいていてよくお話させていただく間柄ですが、今回は個別のプロジェクトについてかなり深いところまでお話を伺うことができました。特に印象に残ったのは、三村さんがクリエイティブを「総合格闘技」と捉えている点です。クリエイティブの分野は多岐に渡り、常に新しい方法やアプローチが求められます。三村さんのように、様々な技術や知識を組み合わせて問題解決に取り組む姿勢は、非常に共感できるものがあります。

既存の価値を再定義し、新たな体験を提供することで、深い共感を生み出している点が素晴らしいと感じました。

これからも三村さんの活動や取り組みを参考にさせていただきながら、私自身も精進していきたいと思います。

※本記事はイベントの対談内容を、要約・編集の上補足したものです。
※より濃密な話が聴ける本編はこちらからどうぞ!https://youtu.be/TcW1P-4R7Og?si=K3FBWwaC4ttkWo-S

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