“読む”KURU JAM01『事業領域を横断しながら、仕事をすること』


2024.06.14

株式会社アートアンドクラフト副社長(現代表取締役)西川純司さんをお招きした第1回KURU JAM。 ご要望にお応えして「記事化」いたしました!

「場」に関わるデザインとビジネスの領域を横断しながら活躍されている方をゲストとしてお招きし、
現在の活動やその裏側にある考え、楽しさ、苦悩などを弊社CEO水谷と語っていただくオンライントークイベントKURU JAM
2022年からスタートした本企画、ご要望いただいていた「記事化」をしていくことにいたしました。

当日のライブ感もお伝えできればと思っています。ぜひお読みください!

第1回ゲスト:株式会社アートアンドクラフト副社長(現代表取締役)西川純司さん

[株式会社アートアンドクラフト]

1994年中谷ノボル氏が設立。
1998年からリノベーション事業を始め、一級建築士事務所、工務店業、宅建業の3つ柱で事業を展開。
2010年頃から「新築を扱わない」というポジショニングへ移行。
2010年にてがけた「HOSTEL 64 Osaka」では、旅館業許可まで取得し、運営まで自社で行うなど、業界の垣根を軽やかに超えていく取り組みは業界でも注目を浴びた。
2011年には「大阪R不動産」を開始。ユーザーの声を直接くみ取り、さらに新たな建築・不動産業へと進化中。
2020年10月に創業者の中谷ノボル氏が経営から退き新体制へ移行し、2023年4月西川氏が代表取締役就任。

[西川さんのこれまで]

1985年生まれ、広島県出身。高校時代はサッカーに熱中するもインターハイでの挫折を経て、兵庫県立大学の環境人間学部で建築を学ぶ。
その後、不動産開発業界に入り、リーマンショックの影響を経験。
2013年にアートアンドクラフト社に入社し、契約社員として「大阪R不動産」事業にジョイン。
入社3年後に取締役に就任。その後、一級建築士の資格を取得し、現在代表取締役(取材当時は副社長)。

(水谷) 今日はよろしくお願いします。
アートアンドクラフトさん、またその中心を担っている創業者の中谷さんや西川さんは、様々な役割のある「建築・不動産業界」において、
本当にその垣根を軽やかに超えていく取り組みをされていますよね。

(西川) ありがとうございます。そうですね。自分のやりたい事への欲求に忠実にやっていますね。
これまで様々な取り組みをしてきましたが、多分良くも悪くも会社を上手に使って自分がやりたいことを事業化してるっていうところもあると思います。
特に創業者の中谷は、自分が作った会社だから、というのもあるとは思いますが。今その会社をどう引き継いでいくか、という難しさは感じているところですね。

(水谷) 大阪R不動産、というサイトも運営されていますよね。様々な事業に対し、その影響力も大きいように感じますがどうですか?

(西川) 影響力はかなり大きいですね。
例えば、大阪R不動産のウェブサイトにはアートアンドクラフトの5倍くらいの人が来ていて、大阪R不動産でアートアンドクラフトのことを知ったという人も多いです。
サイトを通じて、中古ビルのオーナーさんからリノベーション改修工事の依頼を受けるようになったったというのも、事業としては影響が大きかったですね。

(水谷) その他にも感じる効果などありますか?

(西川) 何より、R不動産をやっていると、本当に日々実感値で「マーケティング」してる感覚があるんですよね。
どんなもの(物件)を作ればどんな人が入る(入居する)とかっていうのがもう透けてわかるくらい、ユーザーのことが見えてきます。

(水谷) お客様のことが見えるのは、他の事業にも生かせそうです。

(西川) そうなんです。僕らは提案を通じて、企画とかコンサルティングをするのですが、
具体的な設計業務に入る前に「こうしたらいいですよ」という企画や提案を、強く自信持って伝えることができるのは、改めて僕らの強みだなと思っています。
どんなにかっこいいリノベーションのデザインをしても、そこに入居者が入らないと意味がない。
だからこそ、お客様のことを知っていることが強みになるし、僕たちも企画にコミットすることができて、施主さんに対する説得力にもなる。
そうしてつながって、どんな場を作ってもそこにきちんとお客さんをつけられる。
それは結果として、その場にかけた投資回収ができる、という状態まで提供できるのが、私たちの強みなんですよね。

(水谷) 最近も、新たな取り組みなどされていますか?

(西川) 再販の物件ですが、80平米ほどの鉄骨3階建ての戸建て住宅を購入して、自分達で企画・設計・施工して販売しています。
リノベーション協議会が毎年行っている「リノベーションオブザイヤー」で、1000万円以上の部門で最優秀賞をただきました。
これはコロナ禍で「都市における住宅の在り方」を考えて、自分達で企画し発信した事例ですね。
請負型のビジネスだけでなく、僕ら自ら考えて、最初に自分らの腹切って事業をやる、そんな取り組みは新しいかなと感じています。

共感に人が集まる。アートアンドクラフトのマーケティング

(水谷) まさに今回のテーマで言う「事業領域を横断しながら、仕事をすること」を常に実現し、さらにその領域も深掘りしながら展開されているんですね。
ちなみに、このような展開はそもそも「戦略的」なものだったのでしょうか?
傍から見ていると、戦略というよりも「こういうものが欲しい」「自分がやりたい」に忠実にやっている結果、共感を生み出しているようにも感じています。

(西川) そうですね。自分たちが欲しいもの、実現したい事への共感から生まれる、仕事の依頼は実際にあると思います。
「共感ではじまった仕事」というのは、根本的な部分でお客様と握手できていると感じるんです。共感が先にあるから双方において良い仕事が成り立っている。
アートアンドクラフトのお客さんって本当にいい人が多くて。変な言い方ですが…、仕事を通じて、ほぼネガティブな会話がないんですよ。
例えば、工事を受けたり、設計を受けたりする時、あと不動産との仲介のタイミングでも、根拠のない「まけてくれ」みたいな会話が生まれたことがないんですよね。

(水谷) すごいですね。

(西川) 根拠あるものをきちんと出しているというのも、もちろんあります。それでも、普通多少はあったりしそうですよね。

(水谷) そう思います。理想的ですね。それは、まさに会社のブランディング、「共感」と「信頼」を作ることができている結果とも言えるかもしれませんね。

事業領域を横断することの難しさ

(水谷) 逆に、様々な事業領域を横断しているからこその「難しさ」を感じることはありますか?

(西川) 「自分の欲求と、徹するべき役割のバランスの難しさ」みたいなのはあるかもしれませんね。組織で動いているからこそ、考える部分でもあるというか。
例えば、この案件を自分が設計すべきなのかどうか?ということが起こった時に、もう立場として自分が図面を書いて設計する1時間、というのはもう全然採算合ってないなとか。
そうすると、それでも自分でやることを選択するのか、社内で別でやるのかについて悩んだり。いつも、そのバランスというのは考えたりはしますね。

(水谷) そのバランスがあるんですね。うまく消化できます?(笑)

(西川) できてますけど、もちろん時と場合によっては、自分ではなく人に任せることで生まれるギャップによって、フラストレーションが生まれることはありますよね。
他者評価と自己評価が、良い意味でも悪い意味でもちがうこともありますし。だから、俯瞰的に見るとか客観視するっていうのを大切にしています。
クオリティを自分の価値観や基準で全部求めちゃうと、全体としてはうまくいかないな、っていうのが組織として起こることもありますし。
極端な話、お客さんの求めているものに対しても、自分は経験値分だけ、期待するレベルがどんどん上がっていくことってあるじゃないですか。

(水谷) 次はもっとこうしよう、こんなことをやろう、という感じですかね?
とはいえ同じ場所や建物、不動産などの案件がふってくるわけではないから、次の別の企画に対してこっちの期待値だけあげていくというか。

(西川) そうです。でも来るお客様一人ひとりでいうと、こちらからの提案や期待水準だけで、その基準を高めに行き過ぎちゃうと、
多分お客様をただただ悩ませすぎてしまうとも思うんですよね。もちろん繰り返し一緒に仕事をすることがあれば、お互いにレベルが上がる、ということもあるかもしれませんけど。
だからこそ、常に客観的に物事を見るようにしないといけないなっていうのも、最近思っているところです。

(水谷) なるほど。組織の中でもありますよね。例えばデザインしている人や建築、施工している人においてもあるなぁと。
仕事を続けていると、もっとクオリティを高めたい、みたいな欲求は生まれるじゃないですか。自分の期待水準として。
でもそれはあくまで自分の価値観や基準なので、そこだけに偏らずに、例えば経済的な観念も含めた全体のバランスの中での最適解は何かを、客観的に俯瞰して考えるとか。
クオリティも大事だけど、ちょっとここは抑えに行こうよ、みたいな話ができるかどうかというか。

(西川) そう。それにデザイナー人それぞれでもありますよね。
例えば、職人的に「いや、別にお金関係ないし、寝る時間削ればできるじゃん」という人もいるとは思うんですけど、経営者からすると、そういうのは健全でもない。
設計の仕事だと、そのバランスのとり方は難しいなぁと常々おもいます。だからこそ、常に客観的にみていくことなのかなと。

アートアンドクラフトが提供する「価値」

(水谷) 少し視点を変えた質問なのですが、
事業領域が広く様々なリソースをもちながら、お客様に対して提案をしているアートアンドクラフト社の最も独自の「提供価値」って何なのでしょう?

(西川) 事業の種類にもよりますね。特に個人の住宅ならプライオリティがかわりますしね。一方、事業用の不動産であれば「お客様の獲得」なんじゃないかなと。

(水谷) お客様の獲得。

(西川) そうです。例えば僕らは、個人のお客さんが実需のために家を作る時には、お客さんが望むものであれば、どれだけ過剰な設計してもいいと思っているんですね。
でも事業用の不動産においては、僕ら自身のエゴはそんなに出してないつもりなんです。「無駄なデザインはしない」ぐらいのスタンス。
それは、大きな資本力があるわけじゃないからだとか、バランスが言語化しきれない部分はあるんですが、「過剰な設計はしない、これで十分」ぐらいの設計を心がけてます。

(水谷) なぜ、それは実現できるのでしょう?

(西川) 例えば個人の住宅って僕ら6回から8回ぐらい打合せするんですけど、事業系は3、4回とかなんです。
設計と施工を一貫してやるということもありますが、何より設計や企画において「最終的にこういう人、お客様をつれてきます」という出口感覚が、
そもそもの入口時点で、提示しているからかもしれません。
リノベーション物件などで、過剰なことをするつもりがない時には、
例えば「この賃料なら3ヶ月で(お客様が入る)」とかそのぐらいで絶対決まるように、そもそも設定して設計しています。
投資回収として、こういう風な事業収支になりますよっていうところまで提示して、企画・設計の時点で完全にコミットしている。
そのコミットに基づいた設計だから、お客さんからしたら細かなデザインについて、求められないのだと思います。

(水谷) なるほど。でも、お客様から希望や要望が増えることは?

(西川) ない時もある時もありますね。でも、ある場合でもディティールのデザインのところじゃなくて、もっと大きなデザインのところです。
なので、都度都度細かく増えるということではない。そうなると設計の打ち合わせってあんまり細かく必要ではなくて。

(水谷) それは強いですね。最終的な出口の部分の安心感があるからこそ、信頼関係が成り立っているんですね。

お金のいただき方

(西川) そうですね。それでいうと、僕らは、どういう役割でプロジェクトに関わるかもそんなにこだわりがないです。
設計・施工を行うこともあれば、設計も施工もせずにコーディネート料だけで事業を行うこともありますし。逆に最初の企画段階からリーシングの段階までを担当することもあります。

(水谷) 部門別の採算で言うと、わりと凸凹としたバランスなんですか?

(西川) そうですね、売上のボリュームと利益のバランスでいうと、担当する役割毎にちがいますからね。
ただ僕らの場合、設計、施工、仲介、とそれぞれ請け負うことができるので、例えば一つの案件でも3つの切り口でお金をいただくことができる。
一般的に設計料なら10%とか、世の中的にほぼ決まっている料率がありますが、個人的には25%くらいもらわないと成立しない、力を入れきれないことってあると思っていて…。
でも、うちなら設計と施工でやっているのでなんとかバランスがとれる、みたいなことはあるかもしれません。

(水谷) 設計料のところは本当そうですよね…(笑)できることの領域が分散しているから、多くの価値提供ができるんですね。

事業領域を横断する会社の組織づくり、そしてこれから

(水谷) 3つの事業領域を横断する、その組織はどのような体制なのでしょう?

(西川) 今40人弱の組織ですが、組織づくりはめっちゃ難しいです。以前は営業系と技術系の職種を明確に分けていました。
営業の中でも仲介をメインにする人と、請負の営業をする工務店としての営業、などに分かれていましたが、同じ仕事をずっとすると飽きることもあるので、
スタッフが長く飽きずに働ける仕組みとかは考えたりしています。

(水谷) 具体的に言うとどんな取り組みが?

(西川) 例えば「ハイブリッド」と呼んでいる仕組みです。
「ハイブリッド」は、技術的なことも営業的なことも、広報も、みたいに結構な職種を横断できるようにしています。そのほうが飽きないんじゃなかろうかと。
組織は、新陳代謝で成り立っていると思うので、皆が動きやすく、代謝が良い状態にしたいんです。より具体的には、部署移動というよりは、兼務で横断していくイメージですね。
例えば、設計を担当していた人が不動産の仲介業も始めるとか。それってすごい会社にも還元されています。
実務を経験することで相互理解が生まれますし、組織全体が良くなると思っています。

(水谷) なるほど。うちも部署は分けていますがまさに「相互理解」が大切だと感じます。

(西川) そのために、会議をオープン化する、みたいなこともしていますね。営業・設計それぞれの会議を聖域化せず、誰でもどの会議にも出席できるよ、と。

(水谷) いいですね、今経営体制が変わっていくなかで、ここから事業・組織でさらに取り組みたい事はありますか?

(西川) そうですね、個人的には色々やりたいですね。
事業で言えば、これまでの再販業務はマンションの区分や戸建てが対象でしたが、ビル自体の再販とか。建築と不動産をさらに軸にしていく。
組織で言うと、これから「社員の平均年収800万円」みたいな会社にしたいです。
お金の話の実現は、すぐは難しいこともあるかもしれないけれど、それでもみんなが幸せになれる環境をつくりたい。
しっかり価値を提供して、それに見合った対価を得て、スタッフも喜んで働ける組織が理想なんです。その結果がわかりやすく表すことができるのが「平均年収」なのかなと。
そうすると、会社自体もすごく安定していると思うので、さらにその先にチャレンジができると思っています。

(水谷) 素晴らしいですね。僕も、領域を横断しながらKURUでそうした世界を作っていきます。西川さん、今日は本当にありがとうございました!

おわりに

西川さんとお話をする中で「価値を提供できるチームやパートナーシップを通じて、社会に貢献できる組織になりたい」そんな思いを感じましたし、
KURUとしても目指したい方向がさらにクリアになった時間でした。

皆それぞれが得意な領域があるし、限界もある。
それは、一人ひとりも、組織も、事業領域も同じ。
だからこそ、横断しながら価値を高めつづけるチームやパートナシップをつくること。

そんな背中を見させてもらいました。西川さんありがとうございました。

※本記事はイベントの対談内容を、要約・編集の上補足したものです。
※より濃密な話が聴ける本編はこちらからどうぞ!https://www.youtube.com/watch?v=4L25N00Lrk4&t=4s

TOP