建材メーカーの新しい不動産事業(CASE STUDY 1)sanwacompany ltd. × KURU


2024.04.25

KURUはひとつのチームとして、設計するだけでなく、企画から携わり、またその後の運営にも関わりながら、体験価値をどうつくるかを大切に日々クライアントと向き合っています。

今回は、建材メーカーである株式会社サンワカンパニー(以下、サンワカンパニー)に提案し、共に新たな「不動産事業」への一歩を踏みだした、
『不動産新規事業開発プロジェクト』をご紹介します。

・不動産に関する、新規事業を検討している方
・事業拡大のための「ネタ」を探している方
・新しいプロジェクトの立ち上げ方を学びたい方

には、きっとヒントとなるトピックがあるはず。

ぜひ最後までお読みください。

ふとした疑問からはじまった

「住宅の設備機器や建築資材を扱う建材メーカーが、自社のもつ商品を活かして、顧客に届けたい暮らしを直接提案することはできないだろうか?」

不動産業界出身の弊社CEO水谷の、そんなふとした疑問から、このプロジェクトは始まりました。

不動産や住宅をめぐる「業界構造」。
長く歴史のある業界だからこそ、少し疑問を持って眺めてみると新たなアイデアが湧いてくるもの。

水谷はさらに
「例えば…中古マンションの一室を購入しリノベーションする…不動産の購入から売却までを建材メーカーが行えるようになったらおもしろいのでは?」
「その実現のサポートを、KURUなら実現できるかもしれない…!」

そんな思いから、早速提案に伺ったのが「サンワカンパニー」でした。

サンワカンパニーとの出会い

サンワカンパニーは「くらしを楽しく、美しく。」というミッションを掲げ、住宅設備機器、建築資材のインターネット通信販売を手掛ける業界大手の建材メーカーです。

近年は住宅事業など更に事業を拡大し、「くらしを支えるプラットフォーマー」として、建材の販売だけではなく空間にかかわるすべてのモノ・サービスを提供されています。

引用元:株式会社サンワカンパニー FY2024/1Q 決算説明資料
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3187/ir_material_for_fiscal_ym2/150282/00.pdf

特にその大きな魅力のひとつは、業界初の”ワンプライス”でのビジネス展開
※ワンプライスとは…
設計事務所・ゼネコン・工務店などの業者に対してだけでなく、一般消費者にも同一条件、同一価格で商品を提示する仕組み。
高コストの原因となる代理店などの中間業者を経由せず、流通プロセスを簡素化することで高品質な商品を適正価格で提供することができる。

この、業界の中でも革新的なビジネスモデルをもつサンワカンパニーとKURUがタッグを組めば、
不動産事業を通して「建材メーカーが届けたい暮らし」を直接顧客に提案できるのではないか、と考えたのです。

サンワカンパニーの山根社長に、実際にご提案にうかがうと
「『不動産事業を展開したい』と思ってはいたものの、人のリソースはなく、事業の規模感が本業とは異なるため踏み出せずにいた」とのこと。

提案内容に強く興味を持っていただき、プロジェクトが始まりました。

一緒にプロジェクトを進めるからには、お互いに納得しながら、良いものをそして何よりよい成果を生み出したい。

そのために、まずはじっくりと山根社長の想いや実現したい事をおうかがいした結果、
明確になってきたサンワカンパニーの理想は大きくこの3点でした。

①不動産という切り口で新たな事業を模索する、そのきっかけをつくりたい。
②リノベーションすることで新たな暮らしを提案すると同時に、自社商品をアピールできる空間にしたい。
 また、顧客の生のリアクションを得られる環境を持てることが理想的。
③その結果、事業として効率的に利益を生み出す状態を実現したい。

①③はもちろん重要なこととして、その実現のためにも必要なのが②。

まずは、「物件のリノベーション」を実現するために、

・不動産探しと周辺環境のリサーチ
・サンワカンパニーが販売する商品のリサーチ
・実現したいデザインについてのヒアリングや提案

を同時並行で進めていきました。

ここからはもう少し具体的に、プロジェクトの流れをご紹介します。

①初の「不動産チーム」の誕生

新しいことをやろう!と考えた時に、まず出てくるのは、「誰がやるか?」という問題。
新規事業に取り組みたい企業において、最も重要かつ、最もボトルネックになる点でもあります。

さらに、不動産業を展開していくために必要不可欠なのは「不動産業の免許取得」。

重要だとはわかっていても、本業ではない事業を立ち上げるのは、実際はとてもパワーがいるもの。
実は今回も、この「誰が、どういう体制でやるか?」についての検討にとても時間を要しました。

しかし、中長期的な視点で考えた時に、必ずこの新規事業には意味がある。
そう判断いただき、「不動産プロジェクトチーム」の組成と「不動産免許の取得」を決断いただきました。

この2点についてしっかりと合意形成できたことが、何より大きなインパクトだったように思います。

チーム結成後は、不動産プロジェクトチームの皆さんと、事業推進をサポートするKURUメンバーにて、打ち合わせを幾度となく行い、
チームとしてすべきこと、役割を明確にしていきました。

②物件を「つくる」だけではない、付加価値を生み出すアイデアを

「リノベーション物件」をただ「つくる」ことが今回のゴールではありません。

事業としての付加価値や、既存事業との相乗効果を生み出すべく、
KURUが提案したのは「完成した物件を一時的にショールームとして活用する」ということ。

一般的なショールームは、商品が本物であったとしてもあくまで非日常空間。
自身の生活に取り入れた時のイメージをするのはなかなか簡単ではありません。

ですが、今回のように「実際に住むことのできる物件」での商品提案をすることで、問題解決!

販売する商品の多くを自社で企画・開発していらっしゃるサンワカンパニーだからこそ、
直接顧客が建材を「見て、触れられる」アプローチで、実際に顧客のリアクションも得ることができる、という環境づくりを提案させていただきました。

ショールームを展開・維持しようとすると費用が継続的に発生しますが、
今回の「リノベーション物件開発」と不動産業を組み合わせれば、最終的には売却ができるので、維持コストの心配も不要になります。

何か理想となる場を「つくる」事はおもしろく、重要でもありますが、それ以上に大事なのは「継続的」に「収益につながる」事業となること。

そういった意味でも、新規事業×既存事業の理想的な相乗効果を意識したアイデアを提案させていただきました。

実際、プロジェクト責任者にお聞きすると、竣工から売却までの2年間で毎週のように見学の予約が入り、本業である商品の売上にも貢献することができたそうです。
プロジェクトを通して誕生した新たな商品の販売にも繋がったとうかがっています。

歴史、文化に触れられる街にサンワカンパニーらしいデザインを

KURUとサンワカンパニー、別の企業という枠を超え、不動産プロジェクトチームだけでなく、財務部ともコミュニケーションを綿密にとったりしながら、
プロジェクト始動から1年半後、無事、兵庫県の「御影」に不動産を購入することができました。

御影は閑静な住宅街で、歴史や文化を感じることもできる場所です。
この街なら、サンワカンパニーが思い描くひと味違った特別感のある住宅を提案することができる。そう思い購入が実現しました。

そして、いよいよリノベーション物件のデザインです。

デザインを行う上でイメージしたのは、
『自分の生活スタイルがあり、暮らし方や住まいにこだわりを持つ方が暮らす上質な空間』

住まう機能を担保しつつも、サンワカンパニーのカラーである「シンプル・モダン」をどこまでアピールするのか。

KURUがデザインを担当させていただく上で、商品の本質をしっかりと捉えること、良さをより引き立てる空間にすることには最も注力しました。

完成した室内を見てみましょう。

玄関を入ったところから特別感を感じていただけるのではないでしょうか。
普通なら玄関の前室にあるはずの扉はなく、暗くなりがちな玄関に南からの光が差すことで明るい玄関となっています。

空間の連続性と広がりを感じさせるために、7mの大きな壁を大胆に導入しました。

また、LDKと隣接する部屋にはパーティション「クアドロスリム」という建材を採用することで、
それぞれの空間につながりを生み出しつつも、適度な距離を保つことのできる、一体感のある空間となりました。

一般的なマンションではチャレンジできないような空間となっています。

プロジェクトを振り返って

このように完成した物件は、サンワカンパニー社内でも良い反応をいただけたようで、
プロジェクトメンバーの方々にも、モチベーションを大変高く持って取り組んでいただくことができました。

KURUの設計、デザイン力が生きたと感じられる瞬間でもあったように思います。

もちろん一方で、今後に繋がる課題もありました。
魅力的に見せるために、使用する建材にこだわりすぎると原価が上がってしまい、売却できたとしても利益には繋がらない可能性が高い、ということも実感できたのです。

当然ですが、新規事業は「PDCA」を回し次につなげていくことが全て。
※PDCAとは
仮説・検証型プロセスを循環させ、マネジメントの品質を高めようという概念。Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)の頭文字からくる。

サンワカンパニーでも、今後は価格をある程度抑えた商品展開や、価格に関わらず商品を魅力的に見せるためにはどうするかなど、
新たな展開の余地が十分にある、課題はチャンスと、ポジティブに捉えていただきました。

場のビジネスを、デザインを通じて共に作り上げる

不動産業の免許取得や物件選定から取り組んだ本プロジェクト。
少し時間はかかりましたが、未来につながる仕組みづくりができたことは、KURUにとっても貴重な経験となりました。

建築設計のデザインだけでなく、
組織やチームという関係性もデザインしながらプロジェクトを推進し、
共に「場のビジネス」を創り上げる。

そんなKURUの想いが実現した貴重な時間だったと思います。

今回は「場のビジネスが本業ではない企業」に「場を活用した新たなビジネスの可能性」を提案・実現できたプロジェクトをご紹介しました。

KURUは場のビジネスを共に作り上げる建築設計事務所として、お客様と併走できるパートナーでありたいと考えています。

「何か、場をつくるビジネスに取り組みたい」
「土地や物件を、有効活用するアイデアが欲しい」
「新たな価値を模索したい」

そんな方は、ぜひ一度相談ください。

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